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売掛金のエイジングとは — 債権年齢表(滞留期間別残高一覧)の作り方と読み方

「未収が全部で320万円ある」。この一文からは、実は何も判断できません。

320万円がすべて来週入金予定の期日前の債権なら、それは健全な運転資本です。一方で、同じ320万円のうち200万円が3か月以上放置されているなら、それは回収の問題であり、場合によっては取引条件そのものの問題です。金額は同じでも、意味がまったく違います。

この違いを見えるようにするのが エイジング(Aging) です。日本語では「債権年齢表」「滞留期間別残高一覧」「エイジングリスト」などと呼ばれます。呼び名は違いますが、指しているものは同じです。

この記事では、エイジングの定義と区分の考え方、そこから何を判断するのか、月次で回すときの手順、そして最後にShopifyの掛け売り注文からエイジングを作る方法を扱います。


1. エイジング(債権年齢表)とは — 債権の「量」ではなく「質」を見る

エイジングとは、未回収の売掛金を「支払期日からの経過日数」で区分して並べた一覧表です。

通常は縦に取引先(会社)、横に滞留期間の区分を置き、各セルに残高を入れた表の形をとります。イメージとしては次のような形です(数字は説明用の一例です)。

取引先 期日前 1〜30日 31〜60日 61〜90日 90日超 合計
A社 120,000 80,000 200,000
B社 150,000 60,000 210,000
C社 400,000 400,000

この表が果たす役割は、大きく3つです。

(1)債権の「質」を見えるようにする。 未収総額という1つの数字は、債権の量しか教えてくれません。エイジングは、そこに滞留期間という軸を足すことで質を見せます。上の例なら、C社は残高こそ最大ですがすべて期日前であり、現時点で問題のある債権ではありません。逆にB社は残高が小さいにもかかわらず、31日以上滞留した債権しか持っていません。合計額だけを見ていると、この差は永久に見えません。

(2)対応の順番を機械的に決められるようにする。 未払いが10件20件と増えたとき、注文一覧を上から順に処理するのは効率的ではありません。滞留の分布が見えて初めて、どこから手をつけるかを判断できます。

(3)状態の変化を追えるようにする。 毎月同じ形式でエイジングを取ると、「右側(滞留の長い区分)に残高が寄っていないか」という時系列の変化が見えます。単月では気づきにくい傾向を捉えられるのが、定点観測としての価値です。

DSOとの役割の違い

回収の状態を測る指標として、もう1つよく使われるのが DSO(売掛金回転日数) です。両者は競合しません。

見えるもの 使いどころ
エイジング 未収が、どの滞留区分に、いくら溜まっているか 今日どこから督促するかを決める
DSO 回収までの平均日数 月次・四半期の推移を追う

DSOが「全体としてどれだけ遅いか」を示す速度計なのに対して、エイジングは「今どこに滞留しているか」のスナップショットです。実務では DSOで異常に気づき、エイジングで原因の場所を特定する という使い分けになります。DSOの計算式と改善の切り分け方は売掛金回転日数(DSO)とは?計算式と、Shopify B2Bでの下げ方で扱っています。


2. 区分の切り方と、起点をどこに置くか

一般的なのは30日刻み

エイジングで広く使われるのが、30日刻みの区分です。

区分 意味
期日前(Current / Not due) 支払期日をまだ迎えていない債権。正常な運転資本。
1〜30日 期日を過ぎたが、経過は1か月以内。事務的な行き違いや処理漏れであることも多い帯。
31〜60日 1か月以上の遅延。単なる処理漏れとは考えにくくなる帯。
61〜90日 2か月以上の遅延。取引先の支払能力や、請求内容そのものの争点を疑う段階。
90日超 3か月以上の遅延。回収の難度が上がりやすい帯として扱われる。

30日刻みが唯一の正解というわけではありません。支払サイトが短く回転の速い商材なら15日刻みのほうが実務に合いますし、長期の取引条件が中心なら60日刻みでも成立します。判断基準は、自社の標準的な支払条件に対して意味のある粒度になっているかです。支払サイトが30日の取引が中心なのに60日刻みで区切ると、遅延の最初のシグナルが「期日前」の隣の帯に埋もれてしまいます。

どの粒度を採る場合でも、期日前と延滞を必ず分けることだけは最低条件です。この2つを混ぜると、エイジングを作った意味がなくなります。

起点は「請求日」ではなく「支払期日」

区分の起点をどこに置くかで、同じ債権でも入る区分が変わります。

  • 請求日起点:請求書を発行した日からの経過日数で区切る
  • 支払期日起点:支払期日からの経過日数で区切る

売掛金の回収管理という目的においては、支払期日を起点にするほうが実態に合います。請求日起点にすると、支払サイトが60日の取引先の債権が、まだ期日を迎えていないのに「31〜60日」の帯に入ってしまい、延滞と区別がつかなくなるからです。

会計目的(例えば貸倒引当の見積り)で請求日起点の表が必要になる場合はありますが、その場合も回収管理用の表とは別物として扱うほうが混乱しません。1つの表に2つの起点を混ぜないことが実務上のコツです。

「日数」の数え方も決めておく

細かい点ですが、経過日数を暦日で数えるか営業日で数えるか、そして期日当日を延滞に含めるかも、あらかじめ決めて固定しておきます。毎月違う数え方をすると、時系列で並べたときの変化が数え方の差なのか実態の差なのか分からなくなります。実務では、暦日で数え、期日当日は延滞に含めない(期日前と同じ扱いにする)運用が扱いやすい部類です。


3. エイジングで何を判断するか

エイジングは、作ること自体が目的ではありません。次の3つの判断につなげて、はじめて意味を持ちます。

督促の優先度づけ

もっとも直接的な使い道です。滞留の長い区分から順に対応する、という優先順位が機械的に決まります。加えて、区分によって連絡の温度を変える設計もしやすくなります。1〜30日の帯は事務確認に近い軽いリマインド、61〜90日を超えたら書面や社内エスカレーションを検討する——といった段階設計です。段階ごとの文面例と、いつ・誰の名義で送るかの設計は督促メールの例文と送るタイミングにまとめています。

なお、督促は取引先との関係に直接影響します。滞留日数だけを見て機械的に強い連絡を送るのではなく、取引の経緯や過去の支払い実績と合わせて判断する運用をおすすめします。

取引条件・与信の見直し材料

特定の取引先が継続して右側の区分に滞留している場合、それは個別の請求の問題ではなく、取引条件そのものを見直す材料になります。支払サイトの短縮、与信枠の調整、前払いへの切り替えといった選択肢が視野に入ります。

ただし、エイジングは与信判断そのものではありません。 エイジングが示すのは「自社との取引における過去の支払い実績」だけです。取引先の信用力を包括的に評価するには、信用調査など別の情報が必要になります。

貸倒引当の検討材料

会計上、回収が見込めない債権に備えて貸倒引当金を計上する場合、その見積りの基礎資料としてエイジングが使われるのが一般的です。滞留期間の区分ごとに一定の率を乗じて見積る手法が広く知られています。

ただし、具体的な区分・率・計上の可否は、適用する会計基準・税務上の取扱い・自社の実績によって異なります。 実際の計上にあたっては必ず顧問税理士・会計士にご確認ください。本記事は会計・税務の助言を目的とするものではありません。


4. 月次で回すときの手順

エイジングは、1回作って終わりでは価値の半分も出ません。毎月同じ形で残して、並べて初めて傾向が見えます。運用としては、次の4ステップに落とすと続きます。

  1. 締め日を固定する(例:毎月末日、または翌月第1営業日の午前)。日をずらすと前月比が比較できなくなります。
  2. 先に消込を終える。 着金しているのに未回収のまま残っている債権があると、エイジングは実態より右に偏ります。エイジングを取る前に入金の反映を終える、という順番を固定します。
  3. その時点の表をファイルとして残す。 画面上の表は翌月には別の数字になります。CSVなどの形で月ごとに残しておくと、あとから再計算・再検証ができます。
  4. 前月と並べて、右への移動だけを見る。 総額の増減より、期日前 → 1〜30日 → 31〜60日 と右へ動いた金額のほうが早いシグナルです。

ステップ2は軽視されがちですが、ここが崩れるとエイジングも督促も両方が狂います。消込が遅れる原因と、それが誤送信につながる仕組みは入金消込(消し込み)とは — 「入金済みへの督促」を防ぐ実務フローで扱っています。


5. Shopifyストアでエイジングを作る3つの選択肢

ここまでの考え方をShopifyに当てはめると、現実的な選択肢は3つに整理できます。

(1)注文データを書き出して表計算ソフトで集計する。 注文をCSVで書き出し、支払期日と入金状況を管理して、関数でエイジング区分を計算する方法です。初期コストはかかりませんが、書き出しと更新を人手で繰り返すことになるため、取引先数や注文件数が増えるほど負荷と誤りのリスクが上がります。

(2)会計ソフト側で管理する。 会計ソフトに債権管理機能があれば、そちらでエイジングを取る方法です。ただしShopifyの注文データを会計側へ連携する経路の設計が別途必要になり、Shopify管理画面とは別の画面を行き来する運用になります。

(3)Shopify管理画面の中で完結させる。 掛け売り注文をもとに債権を集計するアプリを入れる方法です。

Shopify標準でどこまでできるか

前提として押さえておきたいのは、Shopifyにも、個別の注文に対して支払いを案内する仕組みはあるという点です(標準の通知設定、管理画面からの請求書の手動送信、Shopify Flow など)。

ただし利用条件には注意が必要です。Shopifyのヘルプセンターは、Flowの「Send payment reminder(支払いリマインダーを送信)」アクションについて「支払いリマインダーと支払いスケジュールは Payment Terms へのアクセスを必要とし、それには Shopify Plus プランが必要」と記載していますShopify Help Center — Send payment reminder / 2026年8月18日確認)。契約プランやアカウントの状態によって使えるかどうかが変わるため、自社の管理画面で実際に設定できるかを一度確認してください。この領域は変更が入りやすいので、最新の記載はShopifyの公式ドキュメントをご確認ください。

なお、B2B(会社アカウント・支払条件)の機能そのものはPlus専用ではありません。

いずれにせよ、個別のリマインドは「点」の対応であり、エイジングは「面」の把握です。役割が違うため、片方があればもう片方が不要になる、という関係ではありません。


6. DueDeskが出力するエイジングの中身

私たちが開発しているShopifyアプリ DueDesk は、この「面の把握」を担うことを目的に作っています。エイジングまわりについて、実際に何が出るのかを具体的に書きます。

画面に出るもの

Shopifyの掛け売り注文をもとに、次の情報を1画面に集約します。

  • 総未収額/うち延滞額/取引先数(未収あり)
  • エイジング(延滞日数別)期日前・当日 / 1〜30日延滞 / 31〜60日延滞 / 61〜90日延滞 / 90日超延滞 の5区分の残高
  • 取引先別 未収残高:未収額・件数・最古の支払期日・延滞の有無
  • 取引先別ステートメント:1社あたりの未収明細をまとめた形

区分の起点は支払期日です。経過日数は暦日ベースで数え、期日当日は「期日前・当日」に含めます(第2章で書いた考え方と同じです)。また、ダッシュボードの「うち延滞額」は、エイジングの延滞4区分の合計と一致するように同じ判定で集計しています。画面上の2か所で数字が食い違わないようにするためです。

CSVで書き出せるもの

エイジングは CSVでダウンロードできます。列は次のとおりです。

会社ID, 会社名, 未収額, 通貨, 件数, 最古支払期日, 延滞日数, 区分, 状態

金額は整形せずそのままの数値、日付は YYYY-MM-DD で出力するため、表計算ソフトでそのまま並べ替え・集計ができます。ファイル先頭にUTF-8のBOMを付けているので、日本語環境のExcelで開いても文字化けしません。第4章のステップ3、つまり「その時点の表をファイルとして残す」作業に、そのまま使える形にしてあります。

プランによる違い(正確に書きます)

  • エイジングCSVの出力にプラン制限はありません。無料プランでも出力できます。
  • 取引先別ステートメントの出力は有料プランの機能です。
  • 無料プランでは、取引先別残高の一覧に表示される取引先が上位3社までに制限されます。これは表の表示件数の制限であり、総未収額・延滞額・取引先数といった集計は全件を対象に計算されます。
  • 督促メールの実送信は、無料プランでは**お試し枠(既定で累計5通)**の範囲に限られます。督促ドラフトのプレビュー自体は、プランを問わず確認できます。

督促については、期日3日前 → 期日当日 → 期日から7日後 → 期日から30日後の4段階でドラフトを生成し、送信前に文面をプレビューして人が確認したうえで1通ずつ送る設計です(自動での一斉送信は行いません)。入金が確認された注文は督促の対象から自動的に外れます。

DueDeskの範囲について

誤解を避けるために明記します。DueDeskは、会計ソフトでも、与信審査・信用調査サービスでも、債権回収の代行サービスでもありません。 提供するのは「Shopifyの掛け売り注文をもとにした売掛金の可視化と、督促運用の補助」です。仕訳・決算・貸倒引当金の計上といった会計処理は会計ソフトと会計専門家の領域であり、取引先の与信判断や実際の債権回収業務は、専門の事業者・サービスの領域です。また、銀行口座の入出金明細を取り込んで請求と突き合わせる作業(消込そのもの)も行いません。

料金は Free / Pro($12) / Plus($29) / Scale($59) の各プランをShopify Billing経由で提供する計画です(金額はUSD、月額。公開時に変更となる場合があります)。


まとめ

  • エイジング(債権年齢表・滞留期間別残高一覧)とは、未回収の売掛金を支払期日からの経過日数で区分して並べた表です。未収総額が債権の「量」を示すのに対し、エイジングは「質」を示します。
  • 一般的な区分は期日前/1〜30/31〜60/61〜90/90日超の30日刻み。粒度は自社の支払条件に合わせて構いませんが、期日前と延滞を分けることは最低条件です。
  • 起点は請求日ではなく支払期日。日数の数え方(暦日/期日当日の扱い)も固定します。
  • 月次で回すコツは、締め日を固定し、消込を先に終え、その時点の表をファイルで残し、前月と並べて右への移動を見ること。
  • エイジングは、督促の優先度づけ・取引条件の見直し・貸倒引当の検討という判断につなげてはじめて意味を持ちます。ただし与信判断そのものではなく、引当の計上可否は会計・税務の専門家にご確認ください。

まずは今月末、1回だけ表を作って残してみてください。1回では良し悪しは判断できませんが、翌月に並べた瞬間から、債権が右へ動いているかどうかが見えるようになります。


DueDeskについて

DueDeskは、ShopifyのB2B(掛け売り)注文について、未収残高・延滞・取引先別残高・エイジング・取引先別ステートメントを1画面に統合し、4段階の督促ドラフトをプレビューしてから送信できるようにするアプリです。Shopifyが入金を認識した注文は督促対象から自動的に除外されます(銀行振込などShopifyに記録されない入金は自動では検知できないため、督促一覧の「入金済みにする」で手動停止します)。銀行入金の取り込み・突き合わせ(消込作業そのもの)は行いません。

なお、DueDeskは会計ソフト・与信審査/信用調査サービス・債権回収代行ではありません。

DueDeskはShopify向けのアプリとして現在開発中です。本記事の執筆時点では Shopify App Storeで公開されておらず、インストールしてご利用いただくことはできません。公開時期は未定です。

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